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押井守監督/スカイ・クロラ

「食べちゃうぞ」「ガチャピンですか」

森博嗣原作、押井守監督最新作、スカイ・クロラ。
観てきました。
ばかでかいスクリーンにがらがらの席。とても快適。椅子もふかふかで気持ちがいい。

先日、我が家に遊びに来た父から兄の感想を伝え聞いたのですが、(兄も私同様、森ファンであり押井ファンでもあります。)兄にはすこぶる不評だった模様。逆に私は、諸手を上げて、とまではいきませんが好意的に評価。森作品、もしくは押井作品を観にいったのか、そのどちらでもない作品を観にいったのか、という観る前の姿勢によって受ける印象が違うようです。

もうとにかく、散香が素晴らしい。空中戦を描いた作品としては、間違いなくトップクラスの出来だと思います。紅の豚、目じゃない。あの空中戦のうつくしさだけで素晴らしい価値があります。

以下にもう少し詳しい感想。
原作とはまるで違う話でした。これは最初からそうなるだろうと思っていたので気にはなりません。
また、押井監督にしては非常に分かり易く明快な作りになっていました。優しく易しい。これも、CMや特集を見てそうだろうなと思っていたので、特に気にはなりません。
ただ、それゆえに、この二点を呑み込めないと相当消化不良になるような映画ではありました。だから、森作品、もしくは押井作品を観るぞ、という心構えで観た方は、肩透かしを食らったのではないでしょうか。

「恋愛映画である」という先触れの通り、何故か恋愛映画に仕立て上げられていました。これはこれで面白かった。函南と草薙が明確に恋愛関係として描かれることで、キルドレのことがより明快に伝わる映画になったように思います。

原作のスカイ・クロラシリーズは一人称で語られるため、主人公の思考が軸となっていますが、映画のスカイ・クロラは一人称の視点をある程度保ちつつ、しかし少し離れた第三者的な視線も織り交ぜながら進んで行ったので、台詞や説明がなくとも映像として内容を理解できました。この辺の演出はさすが押井監督だな、と思います。仕草や僅かな表情の変化で、キャラクターの内面を描き出す手法は素晴らしかったです。

この映画が押井監督にしてはとっつき易い話だなという印象を受けた要因のひとつとして、函南がまるで別人格になっていたことでした。誰このヒーロー、と思うくらい、なんだか「ちゃんとした人」として描かれていた。函南が草薙のすぐ横に銃撃をして、君は生きろ、というシーンが非常に印象的でした。あれは格好よかったな。

原作にとても好きなシーンが幾つかあるのですが、スカイ・クロラシリーズの最終巻、クレィドゥ・ザ・スカイの最後の一行である、「ブーメラン、飛んでいるか?」というセンテンスはその中でも最たるものです。この一文がどこかに織り込まれていればとても嬉しいなと思っていたのですが、んん、まあ、ありませんでした。ま、この映画が作成されたのは大分前のようで、その時点では第二作までしか発刊されていなかったそうなので(笑)現実的に不可能な話なのですが。
大体コードネーム自体が全然違うものになっていましたしね。そこは、とても個人的な思い入れゆえの感情ですが、少しがっかりでした。ブーメラン、飛んでくれよ。ブーメランが飛んでくれよ。個人的に、あの一文がスカイ・クロラを象徴する文だと思っているのです。まあ、ブーメランというコードネームを織り込むと、話がよりややこしくなるのですが。いや、巧く使えば分かり易くなるのかな。

ああ、あと、少し気になったところがあるのですが、それは函南と草薙が二人で食事をしながら、戦争についての会話を交わすところです。あのシーンは、他シーンと比べて明らかに台詞量が多い。原作でもそういうシーンなのでそれはそれでいいのかもしれませんが、映画全体を通して会話を極力減らしているだけに、あそこだけ妙に浮いていました。大体、他のシーンでは戦争については特に語っていないのです。確かに映像から汲み取れる情報は多く存在しますが、あのシーンは戦争という事象を前面に押し出していて、少し異様です。

私がこの映画を観て感じた主題は、戦争ではないような気がします。ですから、あのシーンで戦争についてそこまで饒舌に語らせる必要があったのかどうか、という点について疑問が残ります。まあ、戦争について話しているだけで、その会話自体がなにがしかのメタファーであった可能性もありますが、私には理解できませんでした。戦争という題材を扱っていながら、戦争というものに言及しない作品というものが幾つか存在しますが、スカイ・クロラも同様の手法をとってよかったのではないでしょうか。私には、この作品は人間の在り様を第一に描いたものであり、戦争についての描写はあくまで二次的な訴えのような気がしたので。

 *

と、まあ、ぐだぐだと感想を述べましたが。しかし、正直上で述べたようなことはどうでもよいのです。私にとってこの映画は、空中戦の物語です。主人公は函南でも草薙でもなく、散香です。なんて素晴らしい映像。なんて美しい映像。散香が縦横無尽に空中を飛び回り、銃弾を潜り抜け、戦い、墜ちていく。

原作の好きなシーンとしてもうひとつ、草薙が他のパイロットに向けて講義を行った際の最後の言葉、「どうか、美しく戦って下さい。」というものがありますが、あの言葉はこの戦闘シーンで完全に消化されていたように思います。

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