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Plastic Tree「インク」


インク(完全生産限定盤)インク(完全生産限定盤)
(2012/12/12)
Plastic Tree

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Plastic Treeの最新アルバム、「インク」を買いました。
名盤だよ。
最高傑作だ。
Plastic Treeを好きなひとはもちろん、むかし好きだったひともにきいてほしいし、一回きいてみて嫌いだったひとにもきいてほしいし、興味がないひとにも、知らないひとにも、あらゆるひとに、きいてほしい。

わたしはPlastic Treeというバンドをもう長いこと好きでいるけれど、オリジナルアルバムで「このアルバムはすごい、特別に好き」って思うアルバムは、cell.が最後で、それ以降のアルバムは、好きな曲はたくさんあるけれど、アルバムとして好きとは言えなかった。ウツセミはアルバムとして好きと言える一歩手前くらい、それに近い感触まで近づいた、のだけれどでもやっぱり、dummy box~GEKKO OVERHEADの流れがあんまり好きじゃないから、特別とは言い切れない。一曲一曲は好きなんだけどね。だからアルバムの発売って最近はあんまり楽しみにしていなかったし、発売日なんて覚えていなくてタワレコ行ったら売ってたから買ったとか、熱意に欠ける有様だった。HPも雑誌も、わたしはあんまりチェックをしないので、発売に気がつかないことも多いのだ。Plastic TreeはFCがろくでもないので、去年ついに更新をせずに脱会して、お知らせメールも届かなくなったし。そんな調子でここ最近は、Plastic Treeというバンドは好きだし、ライブには行くけれど、最新音源に対する熱意って、そんなになかった。
でも、インクは楽しみだった。
HPも雑誌もチェックして、予約して、発売日に買った。
どうしてかな、と考えると、理由はいくつか見つかった。
まず、インクに収録されるシングルがすべて好きだったこと。シロクロニクル以降は、あんまり好きじゃないシングルが一曲は入っていた。それだけでちょっと期待値は下がっていたのだろう。でも今回は、すべて好きだった。そして、シングルのカップリングで数曲収録されていた1stアルバムhide and seekの再録も非常によかったのだけれど、インクは生産限定版にそのhide and seekすべてを再録したアルバムが特典としてつく。これも楽しみだった理由のひとつ。それから、発表されたアートワークがものすごくよかった。アートワークも、シロクロニクル以降は好きじゃないというか、センス悪いな、ダサいな、とずっと思っていたのだけれど、今回はとてもかっこいい。好き。あと、発表された収録曲のタイトルがよかった。これはトロイメライの収録曲を見たときの感じと似ていて、タイトルを見ただけで「あったぶんわたしこの曲好き」という天啓というか、閃きというか、妙な確信があった。それに、アルバム発売に先行して発表された「ピアノブラック」がとてもよかった。あとは単純に、ここ最近、ライブがすごくよかったんだよね。バンドとしての状態が、いまのPlastic Treeは、ものすごくいい。
そういった複数の理由から、わたしはインクをとても楽しみにしていた。そして実際に聞いてみて、それは裏切られなかった。
Plastic Treeの現在を、過去を内包する現在を、象徴する素晴らしいアルバムだと思う。
感想を書きます。

1.ロールシャッハ(左)
いちばん最後に収録されている「ロールシャッハ(右)」と対になる曲。
ギターと歌だけの短い曲。
最初は有村の声だけ。彼の声はとても独特で、浮遊感のあるふしぎな歌い方をするのだけれど、そのままふわっといなくなってくれなくって、なんだか「ざらざら」する。浮ついているのに、なんかひっかかる。苦手なひとも多いと思うのだけれど、この声にはまると抜け出せない。そんな彼の声がとてもよく味わえる曲。

2.インク
表題曲。アルバムタイトルを決めてから作ったみたい。
もう、ザ・Plastic Treeと言っていいサウンドと歌詞。どんなバンド?と訊かれたら、これを聞かせればいいじゃん、という、名刺代わりになるような曲。でも、「これまでの集大成」とか「昔ながらのプラの音」っていう意味じゃない。確かにもうずっと連綿と続いているプラの中核になる音で構成されているのだけれど、でも、同時に、すごく新しい。さっき書いたとおり、「過去を内包する現在の音」がする。
骨太で安定したベース、幾重にも重ねられたギター、聞いたことのない声。ミドルテンポの美しい轟音。それから。
新しさは、ギターのアレンジと、ドラムにあると思うのね。一回目のAメロで鳴ってるアルペジオギター、以前ならこういうアプローチはしなかったんじゃないかなあと思う。もっと歪んだ、あるいは低い音をつけたんじゃないかなと思う。ここで鳴っているギターはとてもクリーンな高音で、それがすごくいいんだ。それから、ドラム。イントロやサビでシンコペーションの跳ねるようなリズムでスネアを叩いているのだけれど、それがかっこいいの。ミドルテンポの曲って眠くなりがち、退屈になりがちだけれど、このリズムがそんな雰囲気を作らせない。それに、すごく曖昧な言い方になってしまうのだけれど、歌によりそった叩き方をするんだよね、ケンケン。
それから歌詞。Plastic Treeというバンドは、ずっと喪失を歌ってきた。人間の内側にある悪意を、他者へむけることができなくて、俯いたまま自分のつま先を刺し続けるみたいな、悲しいことがあっても、それと闘うとか解決するとか、そういった積極的な行動なんてできなくて、ただぼんやりと眺めてるみたいな、そんな唄ばかりを歌ってきた。インクの歌詞は、そのひとつの完成形と言えるんじゃないかな。有村と長谷川の共作なのだけれど、ものすごく「らしい」歌詞。これから先もPlastic Treeは曲を書き続けるだろうし、詞を作り続けるだろうし、喪失を歌い続けるのだろうけれど、これはそのひとつの終着点なんだと思う。

3.くちづけ
シングル。メジャーデビュー十五周年シングルの二作目。
曲の質感はインクと似ている。インクを聞いた温度から、そのままするりと入れる。
ふわふわした有村の声と落下する滴のように響くピアノのせいで緩やかな曲って気がしてくるんだけど、わりとタイトなリズムの曲だ。ドラムもベースもギターもずっと刻んでる。そしてその淡々と刻まれる音がサビで一気に拡がって、歌詞の通り「花開く」ような音になる。
個人的には、Bメロのギターがかっこよくて好きです。

4.ピアノブラック
アルバム発売に先行して発表された曲。PVもあるよ。
ナカヤマの曲なんだけど、編成が変。ケンケンがドラムで有村が歌なのはそのままなんだけど、リーダーはベースじゃなくてギター弾いてて、ナカヤマはシンセ弾いてる。ベースはシンセでとってる。
で、編成が変だし、これまでのプラになかった音なのだけれど、完全にPlastic Treeの音楽なんだな!入りをパッと聞くとナカヤマのユニットのdate youみたいな音に聞こえるんだけど、ドラムとギターが鳴り出して有村が歌いだしたらもうプラ以外のなにものでもなくなった。すごいなあ。
歌はふわふわの極地みたい、なに言っているのかぜんぜんわからないのだけれど、それが呪文っぽくていい。歌詞カード見ると、歌詞いいんだけどね。なんとなく、森博嗣の女王の百年密室を思い出しました。
「君の目みたいな夜」って、好きだな。

5.あバンギャルど
これもナカヤマ曲。
あのおじさん、最近ライブでバンギャルバンギャル言って喜んでいるのだけれど、ついに曲にまでしたかと笑ってしまった。(タイトルは有村さんがつけたみたいですね。)
ナカヤマの曲って、どれも負の感情の発露がどうしてもあって、それは茫漠とした悲しみだとか、あるいは有村があんまり書かない怒りだとか、そういうものを感じてしんどいのだけれど、これはないね。ナカヤマがどんなこと考えてこれ書いたのかはわからないけれど、わたしは、もうただ、これをプラでやったら楽しそう!という気持ちだけで作ったんじゃねえかなあと思う。
ギターソロとか、もう笑っちゃったもの。好き放題に弾きすぎ!歌詞は血みどろですが、聞いていて楽しいです。
ナカヤマの詞には、ぎょっとするような、まるでわからない角度から、死角から突き刺されたみたいな、鋭くて印象的なフレーズがたまにあるのだけれど、(「本日は晴天なり」の「孤独と言うか?そういう君の不条理と何が違うんだ?」とか)今回それはなかった。でも、この曲の最後の方の「喘ぐ血も蓮と化した。あの日から蓮と化した。」の部分はメロと相まって、すごく響きがいいと思う。全体的にはダサいんだけど、この詞。
いわゆるビジュアル系、みたいな曲。父は「ザ・フーみたいだなあ」と言っていた。うーん、そうかなあ?

6.ライフ・イズ・ビューティフル
このアルバムで一番重い曲かもしれないな、と思う。
上手に感想を書けない。
これは昔の有村さんだったら絶対に書けなかった詞だと思う。さらりと書かれてさらりと歌われる言葉が痛い。痛いのだけれど、痛いと歌う自分を肯定している歌だと思った。

「点滅 明滅 寂滅 消滅 光に気づいた皆様に
 あらゆる仮面を用意しておかなきゃ 陳腐な怪人百面相だ
 泣いてる顔はどうだったろう? 笑ってる顔はどうだったろう?
 ねえ?」


海月的にはこんなこと歌われたらさみしいんだよ。でも、確かにわたしたちは、苦しんでいる彼をただ眺めているんだ。その乖離と、でもその乖離の間に存在する音楽と、そこから派生する愛情が、奇妙で、かなしい。
サウンド的には、新しいことをいくつかしている。フォーク的なアプローチから入ってサビで爆発する。ラップっぽいところもある。有村作曲のがなる系の曲の系譜だと思うのだけれど、歌い方がライブに近いので、サビが生々しい。
Bメロのベースがかっこいいよ。

「僕は君が好きなふりをして 君が好きなものを好きとして
 だからまた誰かしらにそんな感情が芽生えるなら 全部そうする」


7.君はカナリヤ
初期プラに近いサウンド。個人的には「ベランダ」とかと近い印象を受けるんだけど。なんでかなあ。ミドルテンポのクリーンな印象の曲。よく聞くと変なギターこっそり鳴ってるけど。
「ライフ・イズ・ビューティフル」でめためたに打ちのめされた後なので、すごくほっとする。
歌詞がケンケンなんだけど、なんというか、ぜんぜん引っかかるところがないというか、素麺みたいな歌詞だと思う。わたしは好きじゃないなあ。
アルバムの流れには絶対に必要な曲なんだけど、単品としてはそんなに好きじゃないな。
「ブルーバック」大好きなので、ケンケンには作詞よりも作曲でがんばってほしいと思う今日この頃です。
追記:ライブで聴いたらけっこう馴染んできました。メルヘンっぽい詩も曲にはまってた。

8.静脈
シングル。メジャーデビュー十五周年シングルの一作目。
聞いていて気持ちのいいギターロックです。
シングルは音録り直したりしないでそのまま入っていると思っていたから、ギターソロに度肝を抜かれた。湧き上がる水、みたいな音。シングルのソロよりもわたしはこっちの方が好きです。かっこいい!

9.てふてふ
ショックス(だったかな?)のインタビューでインタビュアーが「これはクレジットを見なくても長谷川さんだってわかりましたよ!」って言っていたけれど、確かにそうだ。どこからどう聞いても長谷川曲です。
低空飛行、という言葉がぴったりはまるようなサウンド。有村の声は加工されて音の一部のよう、ベースとドラムに溶け込んで沈み込む絵画のよう、そしてその少しだけ上を蝶のゆらりと飛ぶ軌跡のよう、高音をたゆたうギターが静かに鳴っている。暗い色調で描かれた油絵みたいな曲だ。
イントロのドラムがかっこいい。あと、終わり方がすごくきれい。
詞もリーダーで、これがすごくいいの。

「黒い種を蒔く どんな花が咲く 知らないふりして嘘をつく僕の声
 どうか蝕んで 心を奪って いつか覚めるまで透明な根を張って」


追記:これまでの長谷川曲だったら、「白い足跡」と近い印象を受けます、なんとなく。

10.シオン
シングル。メジャーデビュー十五周年シングルの三作目。
「アローンアゲイン、ワンダフルワールド」の系譜だと、個人的には思っている。
メロディラインがきれいで、アレンジもクリアで、聞きやすい曲。
この系統の曲って、好きだけどそんなに引っかからないな、と思うことが多かったのだけれど、シオンはすごくいい。
有村さんにとって、ひとつの区切りになる曲だったんじゃないかな、と勝手な想像をしている。これも昔の彼には絶対に書けなかった詞で、「ただただ君が好き」なんて歌うことは、これまでなら考えられなかったと思う。
ライフ・イズ・ビューティフルと対になる曲に聞こえる。

11.96小節、長き不在。/ 218小節、かくも長き不在。
インスト曲。
96小節は限定版、218小節は通常版に入っています。218小節がどうしても聞きたかったので、通常版も買いました。
アルバム「インク」は歌詞カードも非常に凝っていて、見ていて楽しいのだけれど、96、218、共にデザインが秀逸。
twitterでフォローしている人が「ヴォーカルのいるバンドがインスト曲をやる意味に気がついた」と言っていて、その言葉を見てわたしも自分なりに気がついたことがあって、ふしぎな感じがした。かなしいことのような、そうじゃないような。「バンドの強さ」とか、そういうことを考えた。有村さんの病気のことも。うまく言葉にできない。
Plastic Treeというバンドはこれまでもいくつかインストの曲を作っていて、それはまだササブチが在籍していたころの「回想、声はなく」から始まるのだけれど、順を追って聞いていくとどんどん成熟してゆくのがよくわかっておもしろい。「回想、声はなく」は展開が目まぐるしくて、ひたすらに重なっていく轟音が楽しいのだけれど、生き急いでいるような音で、きりきり限界の速度で回転する歯車が壊れる寸前というか、そういう音だから聞いていて少しきつい。一方、ドラムがケンケンに変わってから作られた「―――暗転。」は、一曲をじっくり聞かせるアレンジになっている。この曲はライブでも演奏されていて、最初の頃は危なっかしくて聞いていられないことも多かったのだけれど、回数を重ねるにつれてどんどん進化していって、今はもうライブでやってくれると飛び上がって喜んじゃうくらい。そうやって一曲をじっくりと育ててきた上での、新しい曲。
ミドルテンポの淡々とした曲で、派手な盛り上がりはない。でも、わたしはこれまでのインスト曲の中でいちばん好きだ。
96はさらりと聞け過ぎてしまうので、218の方が好きです。

12.ロールシャッハ(右)
ロールシャッハ(左)と対になる曲。
柔らかいギターにのせて、
「ひとつ ふたつ
 鏡のうえにヒビが入り割れて崩れた」
と有村が歌う後ろで、カチリ、カチリとヒビの入る音が聞こえる。
シングル「シオン」のPVで、有村と有村が向き合っているシーンがあるのだけれど、それを彷彿とさせる歌詞。目の前に立つ自分。もうひとりの自分。背を向けて行ってしまう。
それでも彼は、「まだまだ文字を書く」のだろうな。そしてわたしたちは、貪欲にそれを貪るんだ。

「「あいたい」だとか「あえない」だとか「ひつよう」だとか「いらない」だとか
 全部 消えてしまったのにな おなじような唄」

コメント

感想面白いです

>めんたま様

コメントありがとうございます。
発売から時間が経ち、多少印象が変わった部分もありますが、今でも良作だと思っています。
衝動的な感想文ですが、楽しんで頂けたのなら幸いです。
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